7期生ブログ第18回『現実逃避?いや、現実と戦うためのパワーチャージだ』

12月2日(木)のゼミでは、オリエンタリズム研究の題材として、ソフィア・コッポラ監督の「ロスト・イン・トーキョー」を扱った。この作品は、家庭や仕事について悩みを抱えているアメリカ人の男女2人がそれぞれ東京のホテルに宿泊し、言語や文化もわからない孤独の中で出会い、交流を深める筋書きだ。

そもそもオリエンタリズムにおいて、西欧の男性はアジアの女性を肉感的でエロチックな存在であると規定し、それとは対照的な自分を理性的な人間だと確立する。つまり、他者を規定することによって、それとは違う自分を初めて確立できるようになるのだ。本作で、物語の前半で精神的に日本から疎外されていたアメリカ人である2人が、後半にいくにつれ自らを取り戻せたことは、人を疎外されている人とされていない人に分けるのではなく、アメリカ人、日本人といった人種では他者を規定できないのだという考えにシフトできたことが要因ではないかと考える。その根拠は2人が東京の夜の街で様々な言語を使う人と会話、交流をしたことや、他のアメリカ人、ドイツ人のような白人が近くにいてもそこには馴染もうとしなかったことなどが挙げられる。単なる彼ら2人と日本人との対比構造ではなく、様々な人種の人間が作品には出てきて、その中には彼らと同じアメリカ人もいたのに彼らは異国の地で心を通いあわせることはなかった。

2人の主人公−−−−−−シャーロットとボブは、何もオリエンタルな枠組みからのみ脱出した訳ではない。彼らは様々な面で疎外を感じていたし、そのたび孤独を感じてもいた。シャーロットが東京に来たのはフォトグラファーである旦那さんの付き添いであるが、自身は物書きを目指しているがまだ芽は出ていない。そんな夫との関係にも違和感を感じていた。だが東京で高尚な神社や花道に全く何も感じなかったがアングラカルチャーに自ら飛び込み楽しんだ経験により、夫からはお高くとまっていると言われていたシャーロットはこれから旦那さんのカルチャーをフラットに見ることができるかもしれない。もう1人の主人公、ボブは俳優だが最盛期は過ぎ、日本のCMには出演するものの、本国での俳優としての活動は思うようにいかなくなっていた。そして結婚して長い妻との関係にも倦んでいた。普段の夫や俳優という属性が東京という地でアンロックされることを彼は望んでいたのかもしれない。アメリカ人のファンに対応を求められた時、遠慮して引く態度をとったことも関係があるだろう。2人は同郷なのだからアメリカに帰っても交流を続けようと思えばできたはずだがそうはなりそうになく、2人の関係は東京の地でだけ成り立つものだ。それはお互いにとってお互いが非日常でなければその地で得たもの、感じたことが無駄になってしまうからで、もしアメリカで出会ったとしたらこのマジックはかからなかった。

物語のはじめ、男性主人公のボブがタクシーから東京の街を眺めるとき、その目は目新しい景色に泳ぎ、戸惑っていた。しかし、ラストシーンでアメリカに帰る際に乗ったタクシーからは、落ち着いた眼差しで東京の街を眺めていた。他者と自分の規定が変わったことで、彼らの見ている世界は変わった。今見ている現実は自分の見方によって変わるということを知った彼らは、アメリカでの普段の生活に戻った時、それまでとは違うようにそれらを見ることができるだろうし、自ずと家族や仕事とも向き合うことができるようになるだろう。

非日常は私たちの世界の見方を時に変えてくれる大切なものだ。だからこそ日々に疲れた時はフィクションの世界に浸ったり、旅に出ることは悪くないと思う。そこで世界と自分に対する、自らの先入観を捨て、元の現実と戦うパワーを身につけて帰ってくることができるかもしれないから。

(最後になりましたが、先日の無用之用さんでのイベントに来てくださった皆様、ありがとうございました。たくさんの人が来てくださって、お話できてとっても楽しかったです。また、一緒に店長をした徳村さん、機会を与えてくださった先生もありがとうございました。本来なら何か企画をするべきだったのに、私の力不足でできなくてごめんなさい。でもやって良かったと思います。今回来られなかった皆様も、無用之用さんはとっても素敵な本屋さんで売られている林檎も美味しいので機会がありましたらぜひ立ち寄ってみてくださいね。私も林檎をたまに買いに行くつもりです。)

村上菜々子

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